アフリカでモテる

旅の記録

タイトルの通りである。僕はアフリカでモテるのである。過去、ケニアとタンザニアへの渡航で何度もプロポーズをされたことがあるのだ。ある時はバスの隣に座っていた女性に身分証を見させられ「私を妻として日本に連れてって」と言われたり、またあるときは友人だと思っていた人が写真を指差して彼女の家族の紹介をしてくれたと思ったら「次に写真を撮る時には私とあなたと私たちの子どもがいるのよ」なんて技アリな求婚もされたことがある。さらに街を歩いているだけで急に腕を掴まれ「結婚してえええ」と叫ばれたことさえもある。冗談で終われば笑いで済むのだが、本人たちは割とガチなこともあるので対応に困る。お世話になっている団体や家族の人ならなおさらで、滞在期間を平穏に過ごす為にそのアプローチを上手く躱すことに命をかけていた事を今でも覚えている。ただこのアフリカモテ現象は男女問わず日本人にはあるあるなようで、アフリカ人にとって我々が珍しい存在であることやお金持ちというイメージによるものだという。まあ後者が殆どだろう。モテることは嫌なことではないがその対応がめんどくさいので、今回僕は日本に帰国したら結婚するフィアンセがいるという設定を自らに背負わせ、その役を演じることにした。川崎に住む義姉に定期的に電話をし「ラブユー」と電話の切り際に言うほどの徹底ぶりである。

その完璧と思われた戦略をものともしないのが、お世話になっている人の家の家政婦をしているグレースだった。きっかけは何なのかはっきりはしないが、おそらく僕が「うまいうまい」と彼女の料理を言いながら食べまくっていたからだろう。ただこれは僕が人の家に転がり込む際に身に付けた最高のもてなされ方であり、どんなに言葉の通じない国でも出された食事を現地の言葉で褒めながら食べまくることはパフォーマンスとしてすごく喜ばれるのだ。それに気を良くした彼女は次々におかわりを薦め、わんこそばのように開いた僕のお皿に豆やウガリ(ケニアの主食)をよそう。僕が満腹である事を伝えてもよそい続ける彼女を止めるため、僕が「美味しい」の次に覚えた言葉は「ウメシバ(お腹いっぱい)」。それでも彼女は嘘をつくなと言って僕に食べさせ続け、「お前がこの国を出る頃までに20キロは太らせてやる」と言っていた。彼女が真顔で言うから余計に怖かった。

彼女を含む数人とスワヒリ語で質問されたことに対して僕がなんでも「グレース」と答えるノリがあった。僕は何を聞かれているか分からなかったが全て冗談で出来上がっているこの空間でわざわざ意味を聞くのも野暮だと思ったので、とにかくなんでも「グレース」と答えていた。質問によって僕が答えるたびに彼女らが黄色い声を出していたことから恐らく、「好きな人は?」みたいな事を言っていたのだろう。こういうノリは日常的に行われ、僕らが一時的に一緒に住む友人としていい感じの関係を築いている証拠にも思えた。

この距離感を保つことが出来れば文句なかったのだが、ある時からグレースが女の顔をし始めたのである。車では僕の隣に座りたがり、ひょんなことからリビングにいるのが僕らだけになると「みんなが気を遣ってくれたのね」みたいなことをマジな目をして言ってきた。こうなったら彼女は止まらず、おかわりをよそう時を彷彿させる勢いで僕へのアプローチが始まったのである。危機を感じた僕が義姉との電話の頻度を増やしてテレビ電話で婚約者だと紹介しても、「でもかんは今ケニアにいる」と鼻歌混じりに言うグレースのメンタリティ。ここで初めていうが、彼女は巨漢である。身長は高くないもののボディーラインがはっきりした服を着た時の彼女はバランスボールに手足が生えたようなものだった。僕は小柄であるが一応男だ。でも普通に力では敵わないことが容易に想像できた。巨大なバランスボールに襲われでもしたら僕はひとたまりもない。

彼女との関係は彼女のターゲットが学校の先生に変わったことで、最後までこの調子とはいかなかったのが良かったが、またもやしょうもないことに腐心する羽目になった。キモく言うと「モテるって楽じゃないよね」。ライオンキング風で言うと「ハクナマタタない」。

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