シーズン2開幕そして元気ない

旅の記録

ご無沙汰してます。僕は今、ベトナムのホーチミンにおります。夏のヨーロッパ旅で思いのほか出費が嵩んだので、つい最近までカフェ店員のアルバイトをしてお小遣いを稼いでいました。ようやく再スタートするこの旅。目の前に広がるのは悍ましい交通量の原付バイクとそこから排出されるガスで出来上がった霞んだ空気。そして窓を閉め切っても漏れ聞こえするほどの騒音。どんな種類かと見てみるとスズキばかりなのでここは東京湾かと思った。(これは面白くない)そしてたった2日でちょっと嫌になってきたベトナム料理。

なんか、、もう、帰りたい!!!!!!!!

実はなんとなくで選んだベトナム。ここで何かしたいというモチベーションは当然ないし、観光地に行って感動するという心の大切な部分を持たずして生まれてきた寂しい人間なので、わざわざ時間とお金をかけて自分の居心地の悪い場所に来ているようなものなのである。とりあえず静かなところへ行きたいので、英語の通じる人を見つけては素敵な田舎がないか尋ね、次の目的地を考えている。

ただ、この胃もたれを起こしているような心の気持ち悪さはこれだけが原因ではないと思う。

シーズン2を迎えた「世界中の子どもの絵で展覧会を開く」為の旅であるが、今回は日にちの期限は無く、予算が無くなったら帰国する。(世界一周できるかな)とは言え決して多いわけではないので、持って半年ぐらいだろうか。自由。どこへでも行き放題。何してもいい。にもかかわらず、心が晴れない。嫌なら自分で勝手に始めた事だから、応援や協力した人たちへの申し訳なさもあるが、辞めてもいい。誰も僕を責めやしないだろう。

原因を突き詰めていくと、「自由」という縛りのなさが逆に怖いと感じている節があると気が付いた。主題のある大喜利よりも、いやーな先輩から振られる「なんか面白いことやってよ」みたいな。今までルールや決まりごとに苦しめられてきたのに、まさか自由を恐れるとは。

先日、数ヶ月ぶりに保育士時代の教え子ちゃんたちに会った。子どもたちのシュッとなった顔の輪郭と少し伸びた背筋を見て嬉しく思った。出会った頃にヨダレとおしっこで上下をビシャビシャにしていた彼らは、もう僕の知らない小学生の顔をしていた。

その日の夜、東京に住んでいた頃に行きつけだった銭湯に立ち寄ることにした。相変わらず番台のおじさんは無愛想で、コンタクトを付けて髪型をキメたメガネパジャマ姿でない僕に気が付くそぶりも無く、目も合わせずに作業のようにタオルとサウナバンドを僕に渡すだけだった。「あの頃、その日の天気とサウナの混雑具合についてばかり話していた若者ですよ」なんて言わない。いつめんのおじさんたちに会えるかと期待したが、時間が合わなかったのか一人もいなかった。イノウエさん、オガワさん、センセイ、お元気ですか。

しかし、それはそれでサウナに集中できるので有難い。カラッとした熱気を感じながら、心地良くも耳馴染みの無い昭和歌謡をBGMに僕は生命を維持できるギリギリまで部屋に篭る。頭のあたりがぽーっとしてきた頃、誰もいないはずの僕の左隣から声が聞こえた。「あと3年頑張ればやりたい事ができる。あの子らの卒園を見届けるまで駆け抜けるんだ。それが終わったら海外に出て挑戦するんだ。」僕が反応する間もなくその言葉の主は影のような真っ黒な実態と化し、僕の首をじわじわと力強く絞めていく。僕は少しも身体を動かすことが出来ない。影は続ける。「あの頃に望んだ自分のはずなのに」「この挑戦のために手放したものもあるのに」「あとはやるだけなのに」、、、。

頭の先から爪先まで死にそうになるくらい熱くなった僕は逃げるようにして部屋を後にし、水風呂へ飛び込む。キンキンに冷えた水が火照った体を包み込むと、温度差で激しくなった心臓の鼓動が指先にまで伝わり、一瞬だけ意識が遠のく。いつの間にか影は消えていたが、さっきの声は間違いなく3年前の自分だった。

危うく過去の自分に殺されるところだった。目の前の仕事に一生懸命な姿。好きな人と過ごせた時間。見えない光を追っていたあの感覚。

今やっと望み通りの環境にいるのに、なんという贅沢であろうか。過去を眩しく感じてしまうのは、きっと今自分のいる場所が暗いからなのだろう。朝に見る月は眩しくない。そして自分が輝いている時、その眩しさには気がつかないのだろう。思い出になってからその眩しさを知るのだ。

ならば、そのために自分がすることはいつだって決まっている。行動を起こすだけ。なんでも出来る自分になったんだ。過去に待ち望んでいた自分になったんだ。

僕の好きな映画の言葉たち。「ノスタルジーに惑わされるな。全て忘れろ。自分のすることを愛せ。」「正しいと思ったら、やれ。」ただこれだけだ。

これを書き始めていた頃は少し元気がなかったけど、数日経った今すでに立ち直っているから、読み返していて恥ずかしい。紛れもなくこれは僕のキモポエムである。

過去の自分に胸を張って帰れるようにしよう。

未来の自分に褒めてもらえるようにしよう。

誰か「なんか面白いことやってよ」

俺「世界中の子どもたちから絵を描いてもらって、その絵の展覧会やるよ。見てろよ。」

今が思い出になったらもう一度あの銭湯に帰ろう。

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