「可愛い子には旅をさせよ」という言葉があるがその可愛い子がどんな旅をしてるのか。その答えをエジプトで知ることになった。
出会ったのはフォトグラファーをしている台湾出身の女の子。彼女はまず見た目が可愛い。隣を歩くだけで男が喜ぶような容姿をしている。基本的に長期旅行中の人はその人が自国にいる時の65%くらいのパフォーマンスであると僕は思っているので、本来の彼女はこんなものではないのだろう。
僕が絵を描いた子どもに渡すのに用意していたチョコレートを見つけ「私、まだ子どもなの」と上目遣いでおねだりする彼女に、与える以外の選択肢は僕にはなかった。パッケージを開けてチョコのおまけに付いていた恐竜のステッカーを見つけて子どものようにはしゃぐ姿を見て、この時すでに僕は彼女に対して、田中みな美のようなあざとさと惚れてしまったら最後みたいな危うさを感じていた。ただ可愛いだけだったらわざわざ文章にせず鼻の下を伸ばして終わりなのだが、台湾語、中国語、韓国語、英語、フランス語、ドイツ語の計6カ国語を話すことができ、自分の意見をズバッと言う賢さと高いコミュ力もあるのが彼女の凄いところだった。さらに他ジャンルでも彼女の凄さを知ることになる。
彼女はカイロで出会った地元の男を惚れさせて無給のガイド扱いし、毎晩のようにネックレスやピラミッド、エジプトの謎の石といったお土産を持って帰っていた。そのお土産ですら、誰かから買って貰ったというのだから恐ろしい。これまでの旅の話や写真から、これが彼女の旅の楽しみ方なのだと悟った。僕は「かわいいは正義」という日本の言葉を教え、それを聞いて一切の謙遜を見せなかった彼女に気持ち良さを感じた。
ある晩、彼女はまた誰かから貰ったというクマのぬいぐるみを持って帰ってきた。自分の相棒としてぬいぐるみを扱う子どものようにくまを抱きしめる彼女に、「この子の名前はなんていうの?」と僕は尋ねた。彼女からしたらただの質問なのだが、これは日本人の僕からの大喜利的な質問をしたつもりで聞いたのだ。ベアーとかショコラとかしょうもない名前を付けたら鼻で笑うつもりだった。そんな悪どい僕の思惑を知らない彼女は、視線を右斜め上に移して考える仕草を見せる。こういうお題は答えるのに時間がかかるほど恥ずかしくなるものだ。しかし彼女は即座に思い付き、僕にその答えを言う。
「ワンダラー!」
咄嗟にぬいぐるのドールと貨幣のドルを掛けたのである。さらに街を歩いていた時に子どもたちから「1ダラー1ダラー!」とおねだりをされたというエピソードまで添えて答えてくれた。お見事。僕の完全敗北である。そして彼女の気持ち良さを気に入った僕はもれなく歴代の彼女に操られた男たちの中に加わり、彼女とケニアに住む僕の知り合いの場所で1か月後に再合流することが決まったのである。
可愛さとクレバーさを持ち合わせ、ちょうどいいスキンシップで男を手玉に取りつつも決して一線は越えさせない見事な男捌きと大喜利センス。アホな男たちはいつも彼女に良いように使われ、甘酸っぱい思い出と共に次の国へ行く彼女を見送るのだろう。旅をさせたご両親はきっと想定していたものとは別の心配をしているに違いない。
コメント
肝心のその子のお顔を見たかったよ……