宿の目の前にある道路を渡ってすぐの場所にナイトマーケットがある。市場とは言ったものの、せまーーーい道の両端にたくさんの屋台が肩を寄せ合いながら所狭しと並んでいる。「ダバダバ!!!!!」「ブラブラブラ!!!」と市場は、店員の客引きの声やお客さんの声で賑わっている。飛行機疲れと初ベトナムで少しだけナーバスになっていた僕だったが、その絶妙なローカル感と清潔さと治安から、気を抜いてはいけないなと思わせる雰囲気がそこにあった。初めて現地で口にした料理は温かいソーメンみたいなものだった。一口目で美味しさに感動したが、その独特な味のスパイシー汁を飲みすすめていく度に、心の中の僕が「ねえ、ほんとにそれ大丈夫?」と小さな声で心配そうに囁いていた。通るだけで心が躍るその通りを、僕は「アドレナリン通り」と勝手に名付け、滞在中の夕食時に何度か立ち寄るほどのお気に入りの場所になっていた。
別の日の昼、ベトナム料理で胃腸が疲れたがバインミーなら食べられるだろうと思い、アドレナリン通りに行ってみた。ちなみにバインミーとは僕がベトナムに行く前から唯一知っていた、サンドウィッチのような食べ物のことで、その名前の持つ雰囲気から勝手にエロスを感じていた。バインバインミー、バヤヤヤインミー。だが実際は野菜やお肉の素材の味を活かした食べやすくて優しい味の小麦料理である。
さて、話は戻って昼のアドレナリン通りについてなのだが、通りを歩きながら周りを見渡してみると、あの夜の賑わいはどこへ行ったのか、本当に同じ場所とは思えないくらい静かで落ち着いた場所だった。夜に広い敷地の壁に沿って小汚いお店が並んでいた場所はなんと学校であり、店の前には昼食を求めて10代の若者たちが列を作っていた。さらに歩みを進めていくと、夜には大量の原付の駐車場だった場所が、幼稚園の敷地内であったことが分かった。
昼は澄まし顔で大人しくしているこの通りが、夜になると賑やかで派手な姿に変える。まるで家では継母にいじめられながらもひたむきに過ごし、お城では素敵なドレスを身に纏って踊るシンデレラのようなギャップを感じた。きっと今夜も魔法が解けるまでアドレナリン通りは輝き続けているのだろう。
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