旅をしていると明らかにこの場所にそれは違うでしょ。と思わず言いたくなることがある。
例えば、ベトナムの街中を歩いていた時のこと。道路は原付の走行が絶えず、エンジン音とクラクションが街中を支配している。そんななか、人通りも多い歩道のど真ん中に一枚のゴザを敷いてマッサージ屋を営んでいる女性がいました。道にそのままゴザを敷いているだけなので、ゴツゴツしてて寝心地は悪いだろうし、もちろん壁はないので、体をほぐされて力の抜けた自分の表情を原付で走る人たちに横目で見られるのです。マッサージは身体をほぐすとともに、リラックスも兼ねていると認識していた僕にとっては少しだけ驚きでした。終わった後に別の疲れが出そうです。
そして、そもそも歩道は人が歩くためにあるもの。食べ物を売る屋台は百歩譲っても、マッサージ屋はいただけないなあと思いました。なのでその場所が本来持つ役割を無視して、別のことに利用する現象を見つけるたびに、僕は「歩道で揉みほぐしてるなあ〜」と心の中で呟いていました。
そしてまさに、この事案が、僕の滞在していたカンボジアのゲストハウスでもありまして。
日本代表がW杯でスペインに歴史的勝利をした日の昼ごろ、さぞかし日本のワイドショーでは大盛り上がりしていたことでしょう。しかしここはカンボジア。日本の勝利に浮かれているのは小汚いバックパッカーだけです。試合後の興奮で寝たのか寝てないのか、よく分からないまま起き、宿に併設されているカフェに行くと、昨夜一緒に代表戦を観た日本人のおっちゃんがいました。僕が「どうも〜」と挨拶をすると、血相を抱えて「英語の文章は書ける?」と尋ねてきました。「まあ、そこそこは、、」と答えると、コーヒーを授業料とし、おじさんの言いたい事を僕が英語に訳す時間になりました。
さてどんなものかと、おっさんが差し出したスマホの画面を見ると、そこにはとある場所のライブ映像を流しているyoutubeがありました。一瞬、「は?」と思った僕におっさんは、「もう、めちゃくちゃに言ってやってよ!!」と投げやり気味に注文しました。そのコメント欄を開くと、誰かとそのおっさんの言い合いによる汚い言葉がびっしり。そしてちょうどそのおっさんは喧嘩相手に英語が出来ないことをディスられたために、僕が引き抜かれたというわけでした。そのおっさんは興奮状態にあったうえに少し頭のおかしい人だったので、どんなことを僕に訳して欲しいか具体的に言語化できていませんでした。「言ってやってよ!」の一点張り。僕は全く知らない人をフリースタイルで英語を使って罵倒できるほど常識のない人間ではないので、少し悩んだふりをして「やっぱすみません、、、」と断りました。おっさんはこのやりとりの間、雲一つない青空の下で大海原を航海する船のライブ映像を一度も観ることはありませんでした。
こういうライブカメラはそこを映し出している景色と時間による経過をじっくり楽しむ為のものであります。そこでおっさんたちがコメント欄で喧嘩って、、、。いや、日本から4235キロ離れたカンボジアでわざわざ「歩道で揉みほぐす」んじゃないよ!
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