ある日、宿から戻るとスマホに何件もLINEの通知が来ていたので、とうとうこのブログかインスタがバズって草間彌生や村上隆に知られたか〜なんて思ったらそんなはずはなく、インドの友達がyoutubeにアップした僕の親子丼クッキング動画がジャスティンビーバーに引用リツートされたわけでもなく、珍しく家族から心配の連絡だった。次男は生きているかと。
それもそのはず、この日は2023年1月15日ネパールのカトマンズ発ーポカラ着の飛行機が墜落事故に遭った日だったのだ。この事故によって乗客と乗組員合わせて72名全員が亡くなったという。
僕は日曜日のこの日、カトマンズのアート教室へ行っていたのでそんな事が起きていたとはつゆ知らず、アホみたいな顔して子どもちゃんに「絵うまいねえ」「描くもの決まらなかったら俺がモデルになるよ」(これはスベった)なんて言って過ごしていた。お昼休憩の時に先生が、僕が翌日にポカラに行くことを知っていた為「なんか飛行機事故あったらしいよ」と教えてくれたのだが、彼女がその飛行機がポカラ行きだとは言っていなかったので、「へえ〜そうなんだ〜」と、その時口に含んでいた”チキンロールおいしい”で脳内を埋め尽くされていた僕はその事を全く気にすることなく適当な返事をして咀嚼し続け、この話は終わったのだ。
そうなのである。僕はポカラへ行く予定だったのである。そして、もし先生が「you土日両方とも来ちゃいなよ」と誘ってくれていなかったら、僕は迷わず事故のあった日にポカラへ行っていた。アート教室2daysのために宿を延泊したのだ。また、カトマンズからポカラへの行き方には飛行機とバスの二つがあり、飛行機だと2時間バスだと10時間近くかかるので、もし僕がせっかちだったらバスではなくて飛行機を選んでいたかもしれない。こんなことをいうと事故に遭った方々に申し訳ない気がするが、先生のお誘いと時間を持て余し過ぎてもはや腐らせてしまいそうな今の自分の状況のおかげで、幸いにも事故に遭うことを逃れられたのである。なので言ってしまえば、先生は僕にとって命の恩人である。その方に対して、物を口に含みながらテキトーに返事をするとは本当にどうしようもない小柄男である。生きているだけで外見に圧倒的なティスアドバンテージを持っているのだから、内面くらいはまともであれ！もう一度インドのデリーに連れ戻してやろうか！！！！(今最も怖い言葉)
この時の自分に、先生へ多大なる感謝の気持ちを伝えることと、ネパールを経つ空港のカフェで食べるチキンロールの方がもっと美味しくておかわりまでしたということを伝えたい。
少し大袈裟ではあるが、今までにないくらい死を身近に感じた。いろんなタラレバで積み重なっていく人生。もともと「明日死ぬかもしれないからやりたいことやっておこう」精神なのでこの出来事が僕を劇的に変化させたわけではなかったが、やっぱり後悔のない生き方をしようと改めて思った。人生はいつでもShow must go onなのである。
それから何日か経ち、無事ポカラからカトマンズに戻った僕はGoogleマップで見つけた日本食レストランへ鼻歌混じりに向かっていた。空は快晴、人は穏やか、道はたまに汚いこの街を僕は気に入っている。ちと寒いからセーターでも買おうかなどうしようかな〜、でも脱いだら荷物になるからな〜、なんて考えながら、もうすっかり歩き慣れた道を歩く。昨夜食べた中華麺のお店が見えたので、そこを左折したらお目当てのレストランはもうすぐだ。もう注文するものは決まっている。”厚揚げ、茄子と豚肉のコチュジャン炒め定食”ご飯おかわり無料。
『ご飯おかわり無料』
僕が一番好きな日本語である。この言葉を強調するためにブログのアンダーライン機能があると言っても過言ではないだろう。あと温泉や井戸水などの『掛け流し』ね。みんなが幸せになる言葉たち。
脳内が約2ヶ月ぶりの日本食の、しかも”定食”というこのふた文字に満たされていた。厚揚げと茄子と豚肉の三つの食材が一緒にコチュジャンで炒められているのか、もしくは厚揚げは単品で小鉢に添えられているのかどうか熟考し、もし厚揚げの山頂に生姜なんて乗ってたらもうナマステだよな〜などと妄想していた。続いて味のシミュレーションでもしておこうと思っていたら急に、
”パンッ！！！！”
と大きくて乾いた銃声のような音が間近で響いた。建物に囲まれた一本道で僕は前を見て歩いていたので、後ろかと思って振り返るが何も起きていない。じゃあ建物を挟んで一本隣の道かその辺だろう、ネパールだから少しくらいのドンパチはあるだろうと自分の身の安全に安堵し、間近に控える栄光(定食)に向かって再び歩き始めようとしたその瞬間、今度は
”チリチリシャラシャラ、、、”
の音とともに空からオレンジと赤色の混ざった火花がパラパラ、時にシャーッと勢いよく僕の真上から降ってきた。後から考えればすぐにその場を離れるべきだったのだが、この時は驚きを一周して、むしろ冷静に「わあ！綺麗！！！」と花火を見ているかのような感動を覚えていた。実際は火花を見てからその場を離れるのにさほど時間はかかってはおらず、ほんの一瞬だったものの身の危険よりも先に火の煌めきに心を奪われてしまったことに、自分の危機管理能力の低さを思い知らされた。
結局のところ、原因は誰かが二階のベランダから洗濯した縦横3メートルほどの布を電線に引っ掛けてしまったからであり、これはこれで問題ではあるが、とにかく怪我人がいなくてよかった。僕も含めてね。出発前に「生きて帰るわ」なんて冗談で友達や家族に言ってたが、ちゃんと冗談で終われるようにしたい。
ちなみに皆さんが気になっていたであろう厚揚げは、他の食材と共に炒められていました。オイシカッタ！
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